1月4日

新年だ。


人気グループのライブ終了後の東京ドーム周辺と、
夏コミの東京ビッグサイトに続き、
「人ってこんなにたくさん存在するんだな」
と感じたUターンラッシュピークの新大阪駅の新幹線乗り場であった。


一体どの列の人がどの新幹線を待っているのか、
ここにやってくるのは37分発ののぞみなのか、
雪の影響のため遅れていた30分発のひかりなのか、
あの家族は何人なのか、っていうか家族なのか、
あの男同士でぴったりと肩を寄せ合ってお揃いのキャリーケースを仲よく持っているあの人たちは友達なのか友達以上なのか、
とにかく新大阪駅は混沌としていた。


無事に乗車したあとも、3時間半から4時間は立ちっぱなし確実の混雑ぶりだった。
腕が動かせないので、本を読むことも携帯電話を触ることもできない。
妄想するしかなかったので、妄想にふけった。

カップル・リモワについてだ(もうカップルと決めつけている。そういう自分勝手さが妄想には重要だと思う)。


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「混んでるな」

 

とR田は言った。揃いで買ったリモワのスーツケース――R田は黒で、M谷は白だ――の上に「博多通りもん」の紙袋をのせ、乗車率100%を超えているであろう新幹線のデッキのすみで小さくため息を吐いた。

 

「うん」

 

と答えるM谷は、心なしか元気がない。それを、「久々の地元に疲れたのだろう」とか「人ごみに酔ったのかも」と考える鈍感さを持ち合わせていない自分を、R田は恨めしく思う。M谷は、疲れているわけでも体調が悪いわけでもなく、悄気ているのだ。

 

「なんか、あいつらも、父親になっちゃっててさ……びっくりしたよな」

 

「びっくりって。いまさら。年賀状だってきてただろ」

 

R田は軽く笑う。こちらからはメールの一通も送らないのに、地元の友人は未だ律儀に年賀状を寄越してくる。それらには、結構な確率で子供の写真が使われているのだ(嫌だとまでは思わないが、趣味がいいとも思わない)。
高校を卒業してすぐに東京にでてきたR田とM谷は、R田の就職をきっかけに同居を始めた。年賀状を送ってくる友人は二人が一緒に暮らしていることを知っているため、「お前らも、いつまでも二人でくっついてないでさ、彼女見つけて、さっさと結婚でもしろよ」などとお節介なことを言う。
「うるせーよ。ほっとけ」と言えるR田と違い、M谷は長いまつ毛を伏せて気弱に笑うだけだ。飲めもしないビールのグラスを心持ち傾け、ぼんやりと揺らしながら。

 

「このまま」

 

そのときと同じように俯きながら、M谷が言った。瞬きをすると長いまつ毛がぱさぱさっと揺れる。徐々にでてきた腹をさする友人たちの中で、M谷の変わらない若さ――むしろ年々増しているようにさえ感じられる可愛らしさ――はひどく目立っていた。友人が気安くM谷の肩を抱いたり背中に触れたりするたび、R田は気が気ではなかった。

 

「このまま?」

 

車内に、誰かの携帯ゲームの電子音がピコピコ、ピロリー、と響く。疲労の色が強く立ちこめるデッキで、明るい人口の音はそらぞらしく、しかし希望的でもあった。

 

「このまま、東京じゃなくて、違うところで降りて、このまま、二人で……」

 

お前がそう望むなら、俺はいいぜ。いつでも、どこへでも、いける。
と、R田が答える前に、

 

「……なんて。冗談」

 

とM谷は笑って顔を上げた。

 

「帰ったら、あついお茶いれてお土産食おうな」

 

その笑顔は、二十年以上前から変わらないのに。まぎれもない現実として、R田の目の前にあるのに。

 

「……そうだな」

 

R田は答え、ドアにもたれかかって瞼を閉じた。

 

 

..end..

 

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妄想は勝手で自由だ。
ちなみにリモワ・カップルとはのる新幹線が違ったので、100%捏造である(あたりまえだ)。


そんなわけで、2015年もよろしくお願いいたします。








阿賀直己 Twitter

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