*きみとぼく『yakiniku』*

 

 

 

「もう愛しか欲しくないんだ」

 

と、きみが言う。

 

「愛しか?」

 

ぼくは笑う。ねぎのたっぷりのった牛タンが、網に脂を滴らせ、熱で捲れ上がっている。

 

「そうさ、愛しか。ネガティヴな感情は全部捨ててさ」

 

「捨ててしまうの?」

 

やはり笑いながら言ってから、きみの小皿に牛タンを取り分けて、レモンを絞ってやる。

 

「食べて」とぼくは続ける。「いいから食べて」

 

大きく口を開け、きみは素直に牛タンを食べる。小皿にのせればのせたぶんだけ食べる。ぼくはカルビを焼く。

 

「捨てる」

 

と、きみは言う。のどぼとけを緩やかに上下させ、惚れ惚れするしなやかさでビールを飲む。

 

「ぜーんぶ、捨てる。愛ある叱責なんて、俺はいらないね。愛だけ。愛だけ残して、あとは」

 

ごとん、とジョッキを置く。きみの目の下がほんのり紅く染まっている。

 

焼けたカルビをきみの小皿に入れる。きみの気に入りの焼肉屋のたれは甘い。

 

「すみません、お水ください」

 

通りかがった店員に告げると、

 

「俺はビールおかわり」

 

ときみが被せるように言うので、ぼくは店員に向かって首を横に振り、「ビールは結構です」と言う。

 

「なんでだよ」

 

眉根を寄せ、唇を尖らせて、きみはぼくを睨む。店員が苦笑いをして去ってゆく。

 

ぼくはミノを焼く。網をかえてもらえばよかったな、と思いながら。

 

「なんでだよーう」

 

机に額を擦りつけながらきみがつぶやく。なんでなんで。俺は飲みたいんだよービールをー。

 

なんでって、そりゃあ

 

「愛さ」

 

ぼくは言う。

 

ミノが焼ける前にきみは眠ってしまうかもしれないね。

 

 

 

*fin*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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