*月の道*

 

 

 

奇妙な寝苦しさを覚えて、真夜中にふと目が覚める。
まだ傷ついたことのない、生まれたての野生の獣が腕の中にいる。不思議だ。眠りについたときは離れていたはずなのに。
健やかに伸びた脚が、俺の脚に巻きついている。がんじがらめという言葉が頭に浮かぶ。道理で最近身体があちこち凝っているわけだ。
微かに開いた唇にそっと耳を近づけて、呼吸を確認する。小さな寝息が耳を湿らせる。生きているらしい、と思う。ほっとする。なぜか。

 

いつかはここからいなくなるのだろう、と考えては、”ここ”というのが日本のことなのか、自分の家のことなのか、腕の中のことなのか、よくわからなくなる。わからないことは苦手なので、考えるのをやめる。
歳をとった、と思う。昔は、わからないことを放っておくのが嫌だった。だから考えた。考えて、答えを導きだそうとした。それがまわりを傷つけるかどうかは問題じゃなかった。ただ答えが欲しかった。答えを見つけられると思っていた。
若かった、と思う。そうして同時に、歳をとった、とふたたび思う(だけどこの二つは、同意ではない)。
生まれたばかりのこの獣も、いつかはいなくなるだろう。いまでさえ、こんなに長い手足を持っているのだ。

いつかは気付く。もう走れるということに。
生きていてくれさえすればいい。離れていても。体温も視線も届かないところにいても。生きていてくれさえすればそれで。

 

「……んー……」

 

獣が身じろぎをする。身体をまるくして、鼻先を鎖骨に擦りつけてくる。回した腕に力をこめると、安心したようにぴたりと動きを止めてふたたび眠りだす。
生きていてほしいと望むこともしかし、突き詰めれば利己心だろうか? と、考える。考えるが、すぐに考えることを諦める。

わからないことは苦手だ。年々苦手になっていく。
もしもお前が走りだすなら、その道が輝いていることを願う。
いまはまだ、ここで眠っていればいい。

 

 

 

*fin*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

阿賀直己 Twitter

↓↓↓↓↓↓