*晴生6*はつこい

 

 

 

パンツと靴下、トレーニングウエアのセット、タオルに、歯ブラシ、それから……あ、携帯の充電器!
一つ一つ頭の中で確認しながら詰めていく。リュックはすでに丸く大きく膨らんでいて、持ち上げるとずっしり重い。
小学生のときの修学旅行のために買ってもらった大きなリュックは派手な黄色で、お母さんはそれを「迷子になっても見つかりやすいから」という失礼な理由で選んだらしい。俺は黒がいいって言ったのにさ。

 

「ハルー?用意できた?」

 

ノックもなしに部屋のドアを開けられたことに少しむっとしながら振り向いたけど、「スイカ切ったから下りてきなさい」って言葉に自然と笑顔になってしまった。スイカじゃ、仕方ないね。

 

「うん。だいたいできたよ」

 

たぶん、と心の中で付け加える。一つや二つは忘れ物をするかもしれないけれど、学校じゃないから平気だ。

 

「明日何時に出るんだったっけ?」

 

一列になって階段を下りながら聞くお母さんの声はくぐもっている。ゆるく一つに束ねた髪の後ろ姿に、「七時半」と呆れながら答えた。

 

「何回言えば覚えるんだよう。カレンダーにも書いたじゃん」

 

「それにしても、一週間なんて長いわねえ。大丈夫かしら」

 

俺の返事をまるっきり無視してお母さんは言う。お母さんってどうしてこう、ひとりごとみたいに喋るんだろう。それでいてこっちが黙っていると、「大丈夫なの?」とちょっと強く訊ねてくるんだ。大丈夫って答えたって、「大丈夫なのかしら」とまたひとりごとっぽく呟くくせにさ。

 

「大丈夫だよ。ヒナと一緒だもん」

 

その名前を口に出したら、がぜん楽しみになってきた。
最後の一段を下り終えて振り向いたお母さんも「そうね」と笑っている。ヒナの名前の威力はなかなかのものだ。
一週間、家じゃないところに寝泊まりするなんて初めてで、すごくわくわくする。もちろんちょっと緊張もするけどね。
明日から、練習生の夏の合宿が始まる。

 

 

 

 

 


ブルーマーブル・エンターテイメントは、業界最大手と言うだけあって全国あちこちに色んな施設を持っている――という話は聞いていた。
その”色んな施設”のうちの一つである合宿所はでも、俺が想像していたような豪華で近代的で大きな建物ではなかった。
貸し切りの大型バスに三時間弱揺られて着いた施設は確かに大きかったけれど、思っていたよりもぼろだった。真四角の白い外壁はよく見るとところどころはげている。規則的に並んだ窓のベランダには、ずらっと灰色の室外機が見える。

 

「なんか古いホテルみたい……」

 

日除けのまったくないかんかん照りの駐車場に降ろされ、じっとしているだけでも首や背中に汗がじんわりと浮かんでくる。
荷物の順番待ちをしながらぼそっと呟くと、隣に並んでいた三崎くんが

 

「正解。ここ、昔はホテルとして使われていた建物なんだよ。十年以上前に廃業したらしくて、それをうちの会社が買い取ったんだって。中はもちろん改装してあるけど、ぼくらが寝起きする部屋はホテルのときのままだよ」

 

と教えてくれた。
まだ八月にもなっていないのにすっかり焼けている俺とは違って、三崎くんの肌は真冬のように白いままだ。つばの大きな麦わら帽子を被って「日差しが強いね」と瞳を細めている。
野球帽やワークキャップを被っている人はいるけれど、麦わら帽子なんて被っているのは三崎くんだけだ。はっきり言って周りからは浮いているんだけど、でも妙にさまになっている。そこだけ切り取れば一枚の絵のようだ。
ぼうっと見惚れていたら、膝の裏を蹴られた。

 

「わあっ!?」

 

衝撃自体は軽かったけど、ちょうど関節の部分だったので、かくん、と力が抜けた。

 

「荷札59番だっただろ!呼ばれてんぞ!」

 

アディダスのキャップを被ったヒナが腰に両手を当てて仁王立ちで俺を睨む。ちょっとぼんやりしているとこれだ。怒りんぼなんだから。

 

「あ、え、ほんとだ」

 

荷物と引き換えに貰ったプラスチックの番号札を握りしめて、慌てて走り出した。背中で聞くヒナの大袈裟なため息すら蝉の声がかき消してしまう。
俺たちが乗ってきた数台のバスと、黒いバンが一台だけ停まっている以外にはすっからかんの駐車場は熱気で歪んでいる。
山道をぐにゃぐにゃ曲がってたどり着いただけあって、建物の周りは緑だらけの田舎だ。それでも、暑さはちっとも変わらない。
ブルーマーブルの施設なら、プール付きのゴージャスな”避暑地”って感じのところかも、なんて想像していたんだけどなあ……。
大きなリュックを背負ってヒナと三崎くんの元に戻ると、同じバスに乗ってきた面子で輪ができていた。
戻ってきた俺に気付いたヒナに腕を引っ張られて輪の中に入り込むと、

 

「――やっぱり、今回の合宿はゲストがいるみたいだぜ」

 

と、先輩の一人がわざと声を潜めて言う。

 

「ゲストって?まさか、あの噂マジなの?」

 

と、別の先輩が少し大きな声で言った。興奮しているらしく、目を丸くしている。

 

「だって、そこに停まってるバン、スモークガラスじゃん。スタッフの数もいつもに比べて多いし、絶対ゲストだって」

 

皆が口々に、「うそ」「マジ?」「やべー」と言いながら笑顔になっていく中、話の内容がちっとも飲み込めない俺は首を傾げていた。
でも、「なんの話ですか?」って質問できる空気でもない。妙に盛り上がっているし、”知ってて当たり前”っていう空気ができあがっている。

 

(あとでヒナに聞けばいいや……)

 

そう思いながらちらっと隣を見たら、視線に気付いたヒナが口元に手を当てて、

 

「あとで教えてやる」

 

と囁いた。
テレパシーみたいなタイミングに嬉しくなって大きく頷いたら、ヒナもにかっと笑った。糸みたいに細くなる目。真っ白で大きな歯。ヒナの笑顔は面白くて笑っちゃうから、好き。
スタッフのお兄さんが、「ロビーで点呼取るぞー!」って、蝉の声に負けじと大声で叫んでいた。

 

 

 

合宿って聞いたときは、一週間みっちり踊りまくりとか、体力づくりとか、そういうものだろうと思っていた。初参加者は俺を含めて片手で数える程度しかいなくて、ついていけるか心配もしていた。
でもあらかじめ配られた日程表にはダンスや歌のレッスンだけでなく、≪VCR鑑賞≫や≪演技指導≫や≪勉強の時間≫なんていうものまであった。
そう、夏休みの宿題持参、なのである。これだけはちょっとなあって思う。お母さんは感心していたけどね。

 

「ハルちゃーん、陽太と部屋離れちゃって残念だな」

 

二段ベッドの上からひょこっと顔を覗かせて言ったのは、三つ年上の金田くんだ。
トレードマークのつやつやの黒髪はまっすぐで綺麗だけれど、目にかかるんじゃないかってくらい前髪が長くって、俺だったらちょっと邪魔かなって思う。
金田くんはあんまり背が高くなくて、ひょろひょろっとしていて、はっきり言ってダンスはちょっとへっぴり腰だ。でも、歌が物凄く上手い。本人も「俺はアイドルグループじゃなくて歌手としてソロデビューする」って言い切っている。
いつも三日月形に目を細くしてにやっと笑い、なにを考えているのかわかりにくいところがあるけれど、好きな先輩のうちの一人だ。
質問をすると意外と丁寧に教えてくれる(でもずーっとにやにやしているけど。そういう顔なんだよね、たぶん)。

 

「でも三崎くんと金田くんと一緒だから嬉しいです」

 

「ハルってほんとうに正直者だよね」

 

リュックサックからトレーニングウエアを取り出しながら言うと、クロゼットに私物を仕舞っていた三崎くんが振り返って笑った。
金田くんももぞもぞと身体を捩って着替えながら、

 

「郷原と一緒なのは嬉しくないんだろ?」

 

と笑って言う。

 

「そんなことは……ないですけど……」

 

正直者と言われてしまうとなんだか情けないけれど、答える俺の声はその通りですと言わんばかりに正直に沈んでいた。
合宿の部屋割を言い渡されたのは、ついさっきロビーで行われた点呼のときだった。
俺は当たり前みたいにヒナと同じ部屋になれると思い込んでいたから、「510号室は、郷原・金田・三崎・潮田の四人だ」って名前を読み上げられたときは思わず隣にいたヒナを思い切り振り返ってしまった。
ヒナはでも、「やっぱりな」と言って小さく息を吐くだけだった。それほど残念がっているふうには見えなくて、大きくリアクションをとってしまった自分がすこし恥ずかしかった。

「去年も学年ばらばらの部屋割だったからさ。予想はしてた」と言うヒナは、一つ上のフロアの605号室だった。階まで違うなんて……って落ち込んだけど、顔には出さなかった。だってなんか俺一人しょげてるのも格好悪いしさ。
もちろん俺だって、ヒナと同じ部屋になれなかったからという理由だけでしょげているわけじゃない。

 

「――まあ、郷原はちょっと当たりキツイけど、単純で熱血なだけだからさ、あんま気にするなよハルちゃん」

 

「はい……」

 

そうなのだ。
憂鬱な気分の原因は、今はこの部屋にいないもう一人のメンバー、郷原くんの存在だった。
年は金田くんと同じ高校一年生で、小学生の頃からうちの事務所に入るまでの七年間野球をしていたというスポーツマンだ。身体ががっしり大きく、真面目で、自分にも人にも厳しい。こう言っちゃあ金田くんにはちょっぴり失礼になるかもしれないけど、年が同じなぶん、二人は対照的に見える。
郷原くんは努力家だし、すごく立派な先輩なんだってことはわかっている。
でも、苦手なものは苦手なんだ。意地悪をされるわけじゃないけれど、いつもむすっとしているし、誰のこともあだ名で呼んだりしないし、……練習前のウォーミングアップ中にヒナとふざけ合っていて叱られたこともあるし。
今だって、「各々荷物の整理をしてから三十分後にウェアで三階のホールに集合」って言われたにもかかわらず、荷物を置いたら挨拶もそこそこにさっさと着替えて出て行ってしまった。
金田くんの予想では「建物の周りをひとっ走りしてくるんじゃないの」とのことだ。

 

「まあまあハル。そんなに緊張しないで。いつも通り一生懸命やっていれば大丈夫だよ。最終日にはちょっとしたパーティーもあるし、それまでにきっと郷原くんとだって親しくなれるよ」

 

ニコッ、と爽やかに三崎くんが笑い、「そうさー。なれるさー」と金田くんがのらりくらり言う。励ましてくれているのだろうけど。
なんだかなあと思いながらベッドの上にばさばさ荷物を出していたら、入れっぱなしにしていた携帯電話がころんと布団の上に跳ねた。
画面に新着メッセージのお知らせが光っていた。

 

『件名:Re;
 本文:ホールに集合する前にちょっと喋ろうぜ。五階と六階の間の非常階段の踊り場に集合!そこなら人来ないから』

 

差出人は、もちろんヒナ。受信時間は一分前だ。
自分でも不思議なくらい、胸の奥から嬉しい気持ちがむくむく湧いてくる。
そうだ。ヒナも先輩にばっかり囲まれて、ちょっと息苦しいのかもしれない。色々話を聞いてほしいのかもしれない。俺を頼ってきてるのかもしれない!

 

「あ、お、俺、俺も先に行ってきます!」

 

突然大声を出した俺に、三崎くんが目を丸くしている。姿は見えないけれど、上の段にいる金田さんも「なんだあ急に」と不思議そうにもやもや呟いた。
二段ベッドから慌てて出ると、枠の部分に派手におでこをぶつけた。がん!という音に、俺よりも三崎くんが痛そうに顔をしかめる。

 

「集合時間にはちゃんとホールに行きますから!」

 

ぽかんとしている二人を部屋に残して、俺は携帯電話を片手に勢いよく飛び出した。
『うん!』という本文だけの返信を受け取ったヒナが、いつも通りの笑顔になっているだろうと思いながら。

 

 

 

(……非常口って、こっち……?)

 

勢いよく飛び出したところまではよかったけれど、元ホテルという建物の中は広く、しかもところどころが改装されているせいか妙に入り組んでいる。
部屋の号数も書いていない白いドアがあったかと思えば、電気のついていない廊下が現れたりもする。まるで脱出ゲームみたいに、どこを曲がっても同じような風景に見える。
こんなことなら部屋を出た瞬間ヒナに連絡すればよかった、と思ったけれど、実は、携帯電話は部屋に置いておかなければならない決まりなのだ。ヒナが持たずに出ている可能性は大いにある。
俺はすっかり忘れて持ってきてしまったけれど、見つかったら没収されてしまう。
講師の先生やスタッフのお兄さんたちもも恐いけど、それよりも先輩たちにバレたらどんなことを言われるかわからない。

 

「一回部屋に戻ったほうがいいのかな。……部屋どっちだっけ」

 

呟きながら、画面で時間を確認した。集合時間までもう十分もない。そもそも、三階のホールって、三階に行けばすぐにわかるのかな?という不安も出てきた。ヒナと一緒に行けばいいと思っていたから、なんにも考えていなかった。
窓のない薄暗い廊下を歩きながらため息を吐いた。ヒナにもよく「バカハル」って言われるけど、今回ばかりは言い返せない。俺って、ばか。

 

(とにかく三階に下りよう……。ヒナには一応メールしておいて、ホールで会えたら謝ろ――)

 

「――っわ!」

 

くるっと方向転換した瞬間、目の前が真っ暗になった。硬くて弾力のあるものにぶつかって、身体ごと跳ね飛ばされて床に尻餅をついた。
手に持っていた携帯電話が、カン、とにぶい音を立てて落ちた。

 

「いってえ……」

 

「ごめん、小さいから全然見えてなかった。大丈夫?」

 

顔面を押さえながら蹲る俺の頭の上から、凛とした低い声が降ってきた。大人の男の声だとわかったので、一瞬にして青ざめた。
講師の先生か、スタッフのお兄さんか、先輩か――いずれにせよ、床に落ちた携帯電話は没収だ。それに、自分の部屋の前でもないところをうろうろしていたのだ。絶対に叱られるに決まっている。

 

「だ、だ、だ、だいじょうぶ、です――すみませんでした!俺!携帯電話持ち出し禁止だってすっかり忘れて持ち出しちゃって!あの!」

 

ええい。こうなればやけくそだ。大声で謝って、それで許してもらえなければ、

 

「罰は受けます!何発でも殴られ――」

 

そうだ!殴られるしかない!
ひっくり返りそうな声を張って勢いで顔を上げると、目の前には見覚えのない男の人が立っていた。
尻餅をついたまま、俺は正真正銘ばかみたいに口をぽっかり開けてその男の人を見上げた。そりゃあブルーマーブルの練習生は何百人といるらしいし、スタッフのお兄さんたちの顔だって全員把握しているわけじゃない。
でも、たとえたった一度でも、遠目だったとしても、この人を一度見たら絶対忘れるはずがない、と思った。
物凄く背が高い人だと感じたのは、頭が今までに見た誰よりも小さかったからだ。芸能人とかモデルとかいうレベルじゃない。これは、――宇宙人だ。
かけているサングラスの丸いレンズが妙に大きく見えるのも、顔が小さすぎるせいだと気付いた。
黒い細身のパンツに包まれた長い脚。シンプルな黒のTシャツから出ている腕は、野生の動物みたいに引き締まっていて、やっぱり長い。

 

「それはきみが悪いな。携帯電話はもちろん没収。それから一発殴らせろ――と言いたいところだけど、俺は先生じゃないからなあ」

 

宇宙人はでも、俺と同じ言葉を発した。
そこだけ見ると女の人みたいに細い指で俺の腕を掴んで立ち上がらせると、

 

「ブルーマーブルの練習生の子だろ?」

 

と言った。思いのほか強く引き寄せられてよろめいた。
ぐんと近くなった距離に、サングラス越しでも目が合う感覚があった。細い筆ですうっと線を引いたみたいに流れる切れ長の一重瞼の奥に、宇宙みたいな深い色の瞳が輝いている。
大袈裟じゃなく、生まれて初めてこんなに綺麗な人を見た。
身体が心臓そのものになったみたいにどくどくしていて、激しい運動をしたあとのように顔が熱くなってゆくのが自分でもはっきりとわかった。

 

「どうした?大丈夫?」

 

なにか。なにか言わなくちゃ。ぶつかってごめんなさいって言わなくちゃ。せめて大丈夫ですって答えなくちゃ。
そう思うのに、声を出そうとすると邪魔するみたいに心臓の音が大きくなっていく。

 

「……――あ、」

 

かろうじて声らしきものを出した瞬間、床に投げ出された携帯電話が震えた。短い振動だったから、メールだろう。ヒナかもしれない。

 

「ご、ごめんなさい俺、行かなくちゃ!」

 

結局俺はそれだけ言って細い指を振り払い、携帯電話を掴んで走り出した。

 

(宇宙人だ。絶対絶対そうだ。あんな綺麗な人が世の中にいるわけない。宇宙人……でも、ブルーマーブルって言ってた……?)

 

 

 

階段を駆け下りていくとすぐに当たりの場所に出たらしく、人だかりができていた。
ざわざわしている空気や、あちこちから聞こえる大勢の話声が妙に遠く感じられて、靄に包まれた感覚が夢の中にいるようだった。

 

「ハルッ!」

 

「あ、ヒナ……」

 

すぐに俺を見つけてくれたヒナに腕を引かれて後ろに並び、そこでやっと深く呼吸をした。ヒナの声を聞いて、現実なのだと確認した。
遅刻というわけではなかったが、最後の最後に来たのが俺だったようだ。並んですぐに合宿の責任者であるスタッフから今後のスケジュールや注意事項などの説明が始まった。

 

「バカハルッ!」ちらりと振り返ったヒナが、潜めた声で俺をなじる。「どこほっつき歩いてたんだよ!俺まで遅刻しそうになっただろうがっ」

 

いつも通りぷんぷん怒るヒナの声を聞いていたら、脈打っていた身体が少しだけ落ち着いてきた。汗を拭うために手の甲で額を擦ると、ヒナは一転して心配そうに表情を曇らせる。

 

「どうした?顔赤いけど、体調悪いのか?スタッフさん呼ぶか?」

 

「へいき……」

 

首を横に振って、見慣れたヒナのうすっぺらい背中にぺったりもたれかかった。首筋に頬を当てると思いのほか冷たくて気持ちがいい。小さく息を吐いたら、ヒナの肩がわずかにぴくっと震えた。
ずいぶんと治まってきたけれど、あんなにどきどきするなんて普通じゃない。心臓が痛いし、なんだか病気みたいだ。
こういうの、お姉ちゃんに借りて読んだ漫画のストーリーにあった気がする。出会い頭にぶつかって、相手が凄く格好よくて、ずうっと忘れられなくて……。
これって、もしかして、

 

「ねえヒナ……」

 

「な、な、なんだよ。息がかかるっつうの」

 

くすぐったいのか、色白のヒナの首や耳はほんのり赤くなっている。

 

「俺、もしかしたら、”恋に落ちた”のかもしれない……」

 

恥ずかしいから小さな声で呟いたのに、

 

「はあ!?恋ぃ!?」

 

ってヒナが大声で叫んでしまったものだから、俺とヒナはずらりと並ぶ練習生の注目の的となった。もちろん、その後二人だけで大人たちにしっかりと叱られた。

 

 

 

遅いってからかわれるかもしれないけれど、これは、俺の初恋かもしれない。
顔の小さな、手足の長い、綺麗な指をした宇宙人さん。
ぼんやりと思い出すだけで、治まりかけた心音がまた大きく速くなっていくような気さえした。
落ち着かなくて、ヒナのTシャツの裾をきゅっと摘まんで引っ張ったけど、説明会が終わるまで、ヒナは一度も振り返らなかった。

 

 

 

 

 


*To be……*

 

 

 

 

 

 

 

 

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