*晴生3*約束の隣にきみ

 

 

 

約束っていうのはそもそも、忘れないっていうのが前提のものなのだけど、
それでも「約束だよ」ってわざわざ口に出すのは、つまり「忘れないで」って念を押したいからなんだと思う。

 

約束だよ。
忘れないで。
ぜったい。
ずーっと!

 

俺にも、それを言いたいときがある。忘れてほしくないし、忘れたくない。

 

 

 

 

 

ダンススタジオって、行ったことある?なかったら、ちょっと勿体ないと思う。壁一面が大きな鏡になっていて面白いし、動くたびに鳴るシューズの音は、何回聞いても新鮮だ。
そのことを話したら、「体育館と一緒だろ?」って学校の友達は言ったけれど、全然違う。
音がすごくみずみずしいの。まわりで踊っている人たちの、Tシャツやトレーニングウエアが擦れるかすかな音もいい。それに、においも全然違うね。学校の体育館みたいな、あんな湿っぽいものじゃないんだ。

 

「においー?」

ヒナの身体は柔らかい。ストレッチ中の、脚を目いっぱい開いて座っている背中に覆い被さると、面白いくらいぐんにゃりと前に倒れていく。俺は”こなきじじい(と、ヒナが言う。俺は知らないけれど、妖怪の一種なのだそうだ)”みたいにヒナの背中に張り付いて、さふさふした頭のてっぺんに顎をのせながら「うん」と言う。ヒナの髪は俺のそれより少し硬い。

 

「スタジオのにおい、俺、好き」

 

「汗臭いじゃん」

 

「んーん。そうじゃなくて、スタジオ自体のにおい。木のにおいかなあ」

 

ヒナは首を傾げるけれど、鏡越しにじっと見つめると肩を竦めつつも、

 

「出来るだけ、意識して嗅いでみる。汗のにおいをうまく避けて」

 

と言ってくれる。わかってもらえたら嬉しいなと思っていたので、「ありがとう」と俺は言う。
「なにそれ」「わかんない」って放り投げてしまうことも出来るのに、ヒナはそれをしない。「考えてみる」「試してみる」って言ってもらえるのはすごく嬉しい。たとえヒナと、好きなにおいをわかりあえなくても、やってみるのとやってみないのとでは違うでしょう?

 

「約束だよ、ヒナ」

 

ほとんど顔が床につきそうなくらいぺったりと身体を前に倒しているヒナの背中に、俺もぺったりと張り付く。ヒナの背中はうすっぺらくて、だからこうして引っ付いていると、背中に心臓があるみたい。

 

「わかった、わかった。ハールッ、そんな引っ付いてたら起き上がれない。重い」

 

背中にあっても、あばら骨はあばら骨て名前なのかな?よく知らないけれど、その骨越しにヒナの声がびりびりと伝わってくる。わずかに揺れているので、笑っていることがわかる。
ヒナ、あのね……と、言おうとしたら、白くてにょろっと細長いヒナの腕に脇腹を掴まれた。指がTシャツ越しにさらさらと動くので、くすぐったくて「ひゃあ」という間抜けで変な声が出た。
自分でも思っていたより大きな声だったので、周りでストレッチをしている人たちがちらほらと振り返る。
くすくす笑っている人がほとんどだが、中には嫌そうに眉を持ち上げて睨んでくる人も――ほんの一部だけど、いる。

 

「ヒナッ、く、くすぐったいだろっ」

 

身体を離し、声のヴォリュームを落として叫ぶと、唇の片方だけを上げたヒナがにやにやしながら振り返った。

 

「重いのに退かないのが悪いんだよ。くすぐったがりのハル。横っ腹がいちばん弱い」

 

なんでそんなことわかるんだよ、と視線で問うと、まるで俺がその言葉をそっくりそのまま口に出したかのように、

 

「いつもそうだからわかる」

 

とヒナは答える。
そういえばいつも、ぼうっとしているとヒナが後ろから横っ腹を触ってくるような気がする。じたばた暴れてもしゃがみ込んでも器用に動くヒナの指は離れないので、俺たちは一緒に育った双子の犬みたいにレッスンスタジオの床を転げまわる。
そういうのが、ただ楽しいだけなんだ。
ブルーマーブルでの練習生生活は楽しい。週に二回組み込まれている歌のレッスンも、声を出すまではちょっと恥ずかしかったけれど、いったん歌い出してしまえば面白い。俺は歌うのが結構好きみたい。
なにより、スタジオの大きな鏡に写っているヒナと自分の姿を見るのが楽しい。ヒナのダンスと俺のダンスとじゃまだまだ比べものにならないんだけど、ステップを踏んだときの音が、ポーズを決めたときの腕の角度が、指の示す場所が、視線の先に見えるものが、ぴったりと重なっているような気がする。
だってほら、ここに通い始めてから、ヒナとはずっと一緒にいるからさ。
楽しい、面白い、もっともっと、もっと……その気持ちだけで毎日過ごしているんだ。
それだけじゃ、だめなのかなあ……。

 

 

 

瓶のラムネは、たとえばサイダーとかコーラとかのほかの炭酸飲料よりも、うすくて頼りない味がする。
それでもなんとなく頼んでしまうのは、売っているのをなかなか見かけないからだ。ここでしか飲めない、と思うと、俺はいつも瓶のラムネを注文してしまう。
ここ、っていうのは、ブルーマーブルのビルから自転車で十分の場所にある、もんじゃ焼き屋『めい』だ。
ちょっとなまりのある喋り方をするおばあさんが一人でやっている小さな店で、たぶん十人も入ればいっぱいになってしまう。店の壁にはあちこち、漢字の書いたお札みたいなものや、すっかり日に焼けて色が変わってしまった写真が貼ってある。おばあさんと肩を組んで有名人んみたいに誇らしげに笑っている人が写っているけれど、誰なのかはちょっとわからない。
店のメニューはシンプルで、もんじゃ焼きのみ。頼むと、おばあさんがその日の気分で選んだ具材が入っていたり――入っていなかったりする。この間は、ちくわを細かく切ったのが入っていた。

 

「もんじゃ二人前と、コーラと瓶のラムネください」

 

店に入るや否やヒナが言った。注文をするとき、ヒナの声は少しだけ高くなる。そのすぐ後に、「ハル座れよ」って俺に言うときの声は、それよりは低い。ヒナはアディダスのジャージーパンツとTシャツ、俺は夏の制服を着ている。
月に二回、一週目と二週目の金曜日は、寄り道をしてもいいことになっている。いいことになっている、ってわけじゃないけれど、うちに帰ってもたいてい誰もいない。
前までは必ずお母さんがいた時間だ。それが最近、習い事を始めたのだ。なんと、あの勉強嫌いのお母さんが”講座”なんかに通って勉強をしている。
うちからバスで二十分の場所にあるカルチャーセンターの、『社会人から初める中国語会話』っていう講座だ。時間はすごく遅くて、八時半から十時まで、みっちり九十分間。「ママ友がその時間の講座を取ってるのよ。ぜひ一緒にって、無理やり誘われちゃって」なんて言っていたけれど、講師の先生が若くて格好いいって姉ちゃんに嬉しそうに話していたから、さしずめ理由はそんなところ。
だから、金曜日のスペシャル感がさらに増した。
休みの前日+寄り道が出来る日!ってね。
もちろん、ヒナとはレッスン前にマックに行くこともあるし、土曜日に昼ごはんを一緒に食べること(やっぱりマックが多い。お金がちょっとあるときは、ラーメン屋に行ったりもする。ヒナが餃子も頼むので、俺はいつも一つもらう)も、ある。
でも昼より夜のほうがすごいと思わない?数ヶ月前までは、夜の七時以降に子供だけで歩くことなんて絶対になかった。
『めい』に一つあるきりの小さな窓から眺める空は真っ暗で、浮かぶ月は生ぬるい白さで輝いている。

 

「また来たねえ、常連さん」

 

店主でありたった一人の従業員であるおばあさんが、もんじゃ焼きのタネをテーブルに置いてにやりと笑う。飲みものはいちおう注文をするけれど、店を入ってすぐ左手にある冷蔵庫から自分で取る仕組みだ。ヒナが取ってくれたそれ受け取りながら、俺はわけもなく恥ずかしくなって俯く。常連さん、なんて、大人みたい。
おばあさんは外国のアニメに出てくるみたいな立派なかぎ鼻だ。笑うと頬と口周りに深い皺が刻まれる。飲食店にもかかわらずレジのそばの椅子に座ってぷかぷか煙草をふかしているし、煙草を挟む指先には真っ赤なマニキュアが塗られている。俺のおばあちゃんとは、似ても似つかないや。
ヒナは別段気後れするようすもなく、「こんばんは」とだけ言う。今日のもんじゃ焼きのタネには、こんにゃくが入っていた。

 

「まだだからな。食べてもいいようになったら、ヨシッ、って言うからちょっと待てよ?」

 

作った土手に液体だけになった素地を流し込み、真剣な顔で鉄板を見つめていヒナが言う。ヨシッ、って犬みたいじゃん……っていう俺の不満なんか、言ってもたぶん聞こえないだろうから黙っている。ヒナは”仕切り屋”。でも、俺の性分には合ってるかな。
もんじゃ焼きがほぼ出来上がり、「ヨシッ」と言ってくれた後も、ヒナの顔は真剣なままだった。
俺も頭の中がぐるぐるしていてうまく喋れず、俺たちは数分間向かい合わせで小さなコテをちょいちょい動かしていた。こんにゃくの歯ごたえが面白いけれど、実際味はよくわからない。最近、ずっとこんなふう……。

 

「ハル」

 

鉄板に目をやったまま、ヒナが言う。俺は顔を上げる。
さっきシャワーを浴びたばかりだからか、ヒナの髪はいつもよりほわほわと柔らかそうに見えた。そこで初めて、「あ、いつもはワックスとか使ってるのか」と、気付いた。

 

「なに?」

 

「お前最近、俺になんか言いたいことがあるんだろ?っていうか、なんか黙ってることがあるだろ?」

 

えっ、と言ってしまってから、漫画みたいに「あはは」と笑ってみた。
もちろん、ヒナがつられて笑ってくれるはずはなかった。
ヒナの瞳はつり上がっていて、きれいなアーモンド型だ。黒目がそれほど大きくないせいか、今みたいに下からじいっと見られるとなかなかに鋭くて迫力がある。

 

「……」

 

「言えってば」

 

「言ったら、」ちらり、と目線を上げると、ヒナはやはり険しい顔をしていた。俺は唇を尖らせて、

「言ったら、ヒナ、俺を嫌いになるかも」

 

と言う。途端にヒナのまゆ毛の位置がちぐはぐになり、鋭い瞳が丸く見開かれた。

 

「なるわけないだろ」

 

「……絶対?」

 

約束だよ、とここでは言えなかった。ちょっとオーバーかなって思ったから。

 

「絶対ならない」

 

鉄板の上でじゅうじゅうともんじゃ焼きが焼けている。端のほうがいいぐあいにかりかりになってめくれ上がっている。

 

「……練習生の、先輩たちに」

 

そこまで言うと唇が自然に震え出したので、恥ずかしくなって口を閉じた。心配そうなヒナの視線がつむじに刺さっているのはわかったけれど、顔を上げることが出来なかった。だって、ださいよ。こんなことくらいで涙が出そうになるなんて。
三日前のことだ。話はすごく単純で、練習生の先輩たち――実際にどれくらい先輩なのかはわからないけど、俺に後輩はいないから――に呼び出されて注意を受けた。
たったそれだけの話。でも、思いがけない言葉や態度ってすごく衝撃的なんだ。
先輩たちは俺よりずっと背が高く、嫌なものでも見下ろすような感じで、「お前さあ」って言ってきた。全員で四人で、その中の一人がぶどうっぽいにおいのするガムを噛んでいたのを覚えている。くちゃくちゃいう音が、なんだか嫌な感じだったから。

 

――お前、なんのためにここに通ってんだよ。レッスン中もふざけてばっかりだし。友達づくりがしたいなら学校だけ行っておけって――

 

口をぽっかり開けて、見上げるしかなかった。先輩たちはばかにしたように鼻を鳴らして続けた。

 

――こういうアーティストになりたいとか、目標ないんだろ?顔がいいから選ばれたってだけで、ダンスも歌もたいして上手くないし――

 

後から考えたら、言いたいことはたくさんあった。
俺は、休憩時間は確かにちょっとうるさいかもしれないけれど、レッスン中にふざけたことはありません。とか。
顔とかはよくわかんないけど、ダンスや歌がへたくそなのはわかってます。だから、練習しているんです。とか。
そういうことが言えなくて悔しい反面、「友達づくり」や「目標がない」という指摘には後から考えてもなにも言い返す言葉が思い浮かばなかった。
ヒナや三崎くんと一緒だから楽しい。アイドルになりたいのかなんて、まだ、わかんない。

 

「……もー。泣き虫ハル……」

 

ざらざらの木目の机に、ぱたりと落ちたのは俺の涙だったみたい。途切れ途切れに話をするうちにいつの間にか溢れていた。声も震えているし、俺の涙腺って締まりが悪いや。
ヒナが黄色いおしぼりで顔を拭いてくれる。布がざらざらしていて少し痛かったけど、止まりかけた涙が再び滲んだのは痛かったからじゃない。ヒナも、泣き出しそうな顔をしていたからだ。

 

「先輩たちに、お、怒られて、それが悲しいんじゃないよ?く、悔し、くて、」

 

「わかるよ」

 

「ヒナにも、俺、そういうふうに見える?ふざけてるって思う?」

 

ぎゅうっと腕を掴んだら、「いてーよ」とヒナがわずかに笑った。隣の席に移動して、励ますように俺の肩を引き寄せる。
ヒナの鎖骨の下のくぼみに頬を当てたら、少しだけ落ち着いた。

 

「ハルは、レッスン面倒くさいなーとか、もっと楽して有名になりたいなーとか、思ったことある?」

 

「ない……。レッスン楽しいもん。でも、有名になりたいって思わないのはだめなんじゃないのかなあ。だって、みんなそうなりたいんだろ?」

 

「有名になりたいわけじゃないと思う。俺は、格好いいダンスが踊りたいんだ。それを将来の仕事にしたい。ダンスでお金を稼ぎたい。でもそれは、もっともっとちびの頃からずっとダンスを続けてて出来た目標なんだよ。まだ始めたばっかりのハルに、目標がないのなんて当たり前じゃん。でも一回でも、面倒くさいとかバカバカしいって思うなら――」

 

「思わないよっ」

 

勢いをつけて顔を上げたら、物凄く近くにヒナの顔があった。ヒナの黒い瞳は驚いて大きく見開かれ、目の下がほわっと赤くなる。「わ、わかってるってば」と言うヒナは、突然ぶっきらぼうになる。

 

「でも、たとえば思ったら、そのときはすっぱり辞めるって約束しろ」

 

「……うん……」ヒナが真剣な声に戻ったので、俺も真剣に頷いた。男同士の約束なんだ。「絶対、約束するよ」

 

「ヨシッ。いい子だな、ハル」

 

もう一度肩を引き寄せられて、首筋に顔を埋めた。もんじゃ焼きの焦げるにおいに混ざってヒナの使っているボディソープの香りがした。
泣きべそをかいてしまったのが今さらすごく恥ずかしくなって、

 

「っていうか!自分が手え拭いたおしぼりで俺の顔拭くなよなっ」

 

って、ばしばし背中を叩いたら、ヒナが顔を顰めながら「イテッ」って何度も言う。何度も言うけれど、「やめろよ」って怒ったりはしない。俺は嬉しくて恥ずかしくて、ばしばし叩き続ける。
そんなことを繰り返していたら、

 

「常連さん!犬みたいにコロコロしてないで、さっさと食べなよ」

 

という大きなだみ声がレジのそばから聞こえてきた。
叱られたのかと思って振り返ると、おばあさんは先ほどと同じようににやりと笑っていた。
煙草の灰がレジスターに落ちるのも、一向に気にせずに。

 

 

 

夏の夜の帰り道。もんじゃ焼きと、ラムネで膨らんだお腹が丸く張っている。見上げたところにある月と同じだな、と思う。
行きは急いでいるから、二人乗りをしてぐんぐん自転車をこぐけれど、帰りは押して歩く。『めい』の近くを通る桜川は、昼間に見るよりもずっときれいだ。
星はあんまり見えない。何年か前に家族で行ったキャンプの、満天の星空を思い出した。
ヒナともああいう夜を過ごせたらいいのにな。

 

「今日、ありがとな。ヒナ」

 

トレーニングウエアやらシューズやらを詰め込んでぱんぱんになったバッグの、前ポケットには空になった瓶のラムネが入っている。くびれのところのガラス玉が、ちょっとした振動でカラランと乾いた音を出す。
空の瓶は、もうずいぶんと溜まった。部屋の窓枠に置いておくと日が当たってすごくきれいなの。「持って帰る」って言うと、ヒナはいっつも笑うけれど。
カララン、カララン。
スペシャルな金曜日の音だ。

 

「今度その先輩たちに呼び出されたら、ばしっと言ってやれよ?練習のとき、ふざけたことなんかないです!って。ハルが一生懸命やってんのは、先生たちだってわかってるんだから」

 

「うん」

 

「目標とかはさ、もっと後でいいじゃん。そんなの、決まってるやつのほうが少ないよ」

 

――でも、ヒナは決まってるんだろ?ダンスでお金を稼ぎたいって。いいなあ。格好いいなあ……――
というせりふは、ちょっとばかっぽいので言わなかった。ちらっと横を見ると、ヒナは大あくびをしている。全然、格好よくないや。やっぱり。

 

「あ、でも、願い事はある」

 

「願い事?」

 

かふ、とあくびを噛み殺す声。
ほんとうは疲れているのに、「『めい』行こうぜ」って誘ってくれたヒナ。

 

「俺、ヒナの隣でずっと踊っていたい。ヒナの隣がいい。ずっと、ずーっと!」

 

「……」

 

「ヒナと踊るときもちいいもん。ピタッとリズムが合うって言うか……。ヒナは?俺とするの、きもちよくない?」

 

「……い、いや、うーん」

 

駅までの道は街灯が少ない。ヒナがどんな顔をしているのかは、よく見えなかった。

 

「もっとうまくなるから!」

 

「うん……。わ、わかった」

 

「約束して!ずっとだって!」

 

ヒナのちょっとした沈黙が恐くて、俺はたたみかけるように言った。小指を立てて顔の前に突き出すと、「お、おお……」という引き気味の声が聞こえた。
そっと小指が絡む。ヒナが引いていたって、約束しちゃえばこっちのもんなんだもんね。

 

「お前、それって、アイドルになりたいって目標じゃねえの……」

 

ぼそぼそっとヒナが言ったとき、吹いた風に木々と川面が揺れた。なにを言ったのか聞き取れなくて、

 

「え?」

 

と訊ねたら、「なんでもねーよ」と返ってきた。

 

「なんだよう」

 

「なんでもねえってば。タコのハル」

 

無意識に突き出た唇に、ヒナの人差し指がちょいっと当たった。びっくりして身体を後ろに引いたら、にやにや笑われた。白い歯が覗いているけれど、ちっとも爽やかじゃない。叩こうとしたらひらりとかわされた。

 

 

 

約束だよ。
忘れないで。
ぜったい。
ずーっと!

 

何度も何度も言うから、何度でも「わかった」って答えてほしい。

 

すごく小さなことも、夢みたいに大きなことも。
それに約束という名前がついたのなら。ね。

 

 

 


*To be...*

 

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