*晴生4*Saturday

 

 

 

ヒナからのメッセージは、短かった。
『件名:今週の土日』
『本文:泊まり、OK?』

 

俺の返信はでも、もっと短かった。
『件名:Re:今週の土日』
『本文:OK!』

 

 

 

 

 

 

はじまりは、どんよりした雨の日だった。
どんよりしていたのは雨のせいばかりではない。というか、雨のせいにしちゃあかわいそうだ。俺をくらーい気持ちにさせていたのは、来月の頭にある初めての定期試験だったんだからね。
俺の通う中学校には、一学期は中間テストがない。
一学期と三学期は期末テストのみで、二学期だけ中間テストと期末テストがある――というのを入学してからすこしあとに配られた『年間行事表』で見たときは、そりゃあ「ラッキィ」って思ったけれど、考えてみればそのぶん範囲が広くなるわけだし、テストの日数も多くなる。それに、いずれにしてもテストはテストで、ユウウツな気持ちは軽くならないし減りもしないのだ。
配られた範囲表をペラペラなびかせながら大きくため息を吐いたら、向かいの席で携帯電話をいじっていたヒナが呆れたようすで顔を上げた。

 

「ハル、ため息何回目?しょーがねえじゃんあるもんはあるんだからさあ」

 

素っ気なく言って、ヒナは視線をすぐに携帯電話に戻す。テーブルの上のトレイには二人で頼んだポテトがばらばらと広げてあって、マックのカラフルな広告にしみを作っている。

 

「そりゃ、そうだけどお」

 

レッスンスタジオに一番近いマックは、俺とヒナの待ち合わせ場所だ。最近では、授業が六時間目まである日と、どちらかが掃除当番とか委員会で遅くなる日以外はなんとなくここで会って腹ごしらえをしてからレッスンに向かう。
あんまりにも一緒にいるものだから、練習生の先輩たちは俺とヒナをワンセットにして”ヒナハル”って呼んだりする。
ヒナはちょっと嫌そうにまゆ毛をぴくりと上げるけど、俺はべつに気にならない。”ちびハル”よりはいいやって思う。でもしいて言えば、”ハルヒナ”じゃなくて”ヒナハル”ってところがちょっと気になるかな。

 

「ヒナ、シェイク一口ちょうだい」

 

≪第一回 学期末考査について≫と印刷されたプリントを適当に畳んでかばんに仕舞う。
親指を素早く縦や横に動かして携帯電話をいじっているヒナは、

 

「ヤーダ」

 

と画面を見たまま答える。俺は聞こえないふりをして、ヒナの前にあるシェイクのカップを取った。
紙のカップは汗をかいていて、柔らかくふやふやと頼りない。ストローで吸い上げると、すこしぬるくなったストロベリーシェイクは俺にはちょっと甘かった。ヒナは甘党だ。

 

「ヒナも同じくらいの時期にテストだろ?なんでそんなに余裕なのさ」

 

「余裕じゃねえけど、五月の中間テストでなんとなく要領はつかめたし。苦手な暗記系だけ詰めてやればいいかなって感じ」

 

「ふうん。俺は、暗記もだめだけど数学がだめ……。あと英語もだめ」

 

「じゃあなにが出来るんだよ」

 

軽く笑いながら、ヒナが俺の手からシェイクのカップを取った。「あ、てめー一口っつってどんだけ飲んでんだよ」と小さな声で言ってからストローを咥える。

 

「なんにも出来ないよお。出来ないから悩んでるんだろ」

 

テーブルの下でヒナの脛をスニーカーの先で突く。ヒナはとても迷惑そうに、「汚れるだろ」って言うけれど、それ以上は怒らないので俺は脚でヒナのふくらはぎを挟んだりつま先同士をトントン当てたりして遊ぶ。リズムをつけると面白い。

 

「出来ないなら勉強しろよ。それに、成績が下がったらレッスン通えなくなるぞ」

 

ずずっ、とヒナがシェイクをすすり、空になったカップをトレイに置いた。
恨めし気に見つめてみたけれど、ヒナはそんな顔したってだめだぞっていう感じでツンと澄ましている。鼻を高くするみたいに心もち顔を上向きにするとき、ヒナの顎のラインはすごくシャープだ。
正しいことを言われると、しょんぼりしてしまうのはなぜだろう。
俺は自分でも何度目になるかわからないため息を吐いて、

 

「うん……。がんばる」

 

と小声で言った。ちっともがんばれそうには聞こえなかっただろうけど、言わないよりはましだろう。
ヒナがトレイの上に半端に残ったポテトを俺の口元に持ってきたので、ぱかっと口を開けてそれを食べた。塩味のしょっぱさも、いまはなんだか味気ないや……。

 

「数学は、俺、結構好き」

 

腕に巻きつけた濃い紫色のG-SHOCKを見ながら立ち上がってヒナが言う。

 

「いいなあ。夢でもいいから言ってみたいせりふ」

 

紙ナプキンで手と口を拭い、俺も立ち上がった。このときはまだ、ヒナがなにを言おうとしているのか俺にはまったくわかっていなかった。だって回りくどいんだもの。ヒナの言い方って。

 

「英語も、まあまあ。かな」

 

「ふうん。賢いんだ、ヒナ」

 

「賢くはねえけど。ヤマ張るのとか、得意だし。あ、うちにいたら、姉ちゃんにわかんないとこ訊いたりも出来るし。あいつああ見えて意外と頭いいの」

 

「ふうん。俺の姉ちゃんは当てにならないな。友達と遊んでばっかりだもん」

 

ごみを捨てておもてに出ると、うす暗くてじっとりと暑かった。
雨の日は自転車に乗れないから、バスに乗って帰らなくちゃならない。雨の日のバスは湿った空気とにおいがこもっていて、むしむししている。ちびだから埋もれてしまって、女の人の化粧品やおじさんの汗のにおいなんかで気分も悪くなるし、とっても困る。
ユウウツなのは雨のせいじゃないけれど、さらに気持ちを重くしていることは確かだ。

 

「だから、俺も友達に勉強教えたりも、するんだぜ。ときどきだけどさ」

 

「ふうん。いいね、ヒナは……」

 

「……」

 

これ見よがしな沈黙のあと、わざと細めた目で俺を睨んでから、ヒナが「あーあっ」と大きな声を出したのでびっくりした。
ぱん!と勢いよく開かれた傘は黒で、ふちのところに白と青のラインが入っている。

 

「な、なに。ヒナ、なんか怒った?」

 

ヒナがなにも言わずに歩き出す。驚いてぼんやりしていたらどんどん行ってしまうので、傘を広げて慌てて追いかけた。

 

「ハルってどんかん」

 

前を向いたまま言う。道路に面したほうを歩いているヒナの声は、ちょっと聞き取りづらい。お互い傘を差しているぶんいつもより距離があるように感じる。

 

「――勉強、教えてやろうかって言ってるんじゃん」

 

「えっ。そんなのいつ言ったの?」

 

「察しろよ。……うち、泊りに来たら?今週の土曜日、レッスンの帰りにそのまま。勉強道具持って、さ」

 

ツンとした横顔。口調がぶっきらぼうになるのも目線をわざと合せないようにするのも、緊張している証拠なんだ。ヒナって優しいのに、こういうところで損をしてるなって思う。
俺はちゃんとわかるから、いいけど。俺だけにしか、わからないんじゃないかな。
なんだか嬉しくなって、自分の傘を閉じてヒナの傘に入った。こっちのほうが話がしやすい。
ヒナは、「なんだよ」ってちょっと驚いていたけどね。

 

「お母さんに聞いてみる。勉強教えてもらうって言えば、きっと喜ぶだろうな。あ、時間があったら、ブラウニー焼いてもらうね。そうだ、この前買ったばっかりのCD持って行こうか?ヒナも聴きたいって言ってたやつっ!」

 

一息に言ったら、ヒナはちょっと目を丸くして黙った。それからすぐにくすくす笑い出し、

 

「遊びに来るんじゃないんだぞ。バカハル」

 

と言って顔をくしゃくしゃにした。ヒナが笑うと、心がじんわり温かくくすぐったくなる。
ふと見ると、ヒナの左肩が濡れていた。傘が徐々に俺のほうに傾いてきているのだ。ヒナってば気付いていないんだろうか。

 

「ヒナ、肩濡れちゃってるよ」

 

指をさして教えてあげたら、「お。ああ」と間の抜けた声を出していた。
人のこと、どんかん、なんて言えないよね。

 

 

 

ヒナのお母さんは、ヒナとあんまり似ていない。ううん、顔は似ているんだけど、たとえば、

 

「まあまあハルくんいらっしゃい!もう夕飯の準備出来てるのよ。お腹ぺこぺこでしょう?」

 

と言って俺をぎゅっと抱きしめたりするところなんか、シャイなヒナとは全然違うよね。
もちろんヒナは恥ずかしそうに、「母さんっ」って声を出すけれど、そんなのはちっとも聞こえてないみたいにヒナのお母さんはにこにこしている。

 

「えーっと、今日はお世話になります。これ、うちのお母さ、あ、母からです」

 

叩き込まれた慣れないせりふを言い、”玄関先で渡しなさい”というお母さんの言いつけを守って紙袋を差し出すと、ヒナのお母さんはまた「まあ」と嬉しそうな声を上げて笑った。ふんわりウェーブのかかった前髪が揺れて、耳のピアスが光る。ヒナのお母さんは綺麗だ。
紙袋の中には、デパートで買ってきた焼き菓子のセットが入っている。ブラウニーを焼いてよって言ったら、「泊まらせて頂くのに、手作りのものなんて恥ずかしくて持たせられないわよう」と困った顔で言っていた。よくわからないけど、お母さんにはお母さんのルールがあるみたい。
荷物を置いて手を洗ったら、ほんとうにすぐにばんごはんだった。
お母さんとお姉さんもテーブルについて食事が始まったときはすこし緊張したけれど、目の前に並べられた料理にすぐに夢中になった。ヒナのお母さんの言う通り、お腹はぺこぺこだったんだ。
ばんごはんは、油淋鶏という、醤油のたれがかかったから揚げと、三色のねじりパスタが入ったポテトサラダ。牛肉とわかめの入ったスープは、ごま油がこっくりきいていておいしい。「箸休めに」と言って出された自家製ピクルスはちょっと酸っぱかったけれど、それもたくさん食べた。
食後のデザートにはチョコレートソースのかかったバニラアイスが出された。と言ってもそんな簡単なものじゃなくて、生クリームとバナナのトッピング付き。仕上げにピンクや黄色のチョコレート・スプレーがぱらぱらと振りかけられた、自家製パフェだ。
ヒナのお姉さんは「ダイエット中だから」と言って食べなかった。確かに、とってもボリュームがある。
でも、お姉さんはすごく痩せている。どうして女の子は痩せていても太っていても関係なく、流行みたいに「ダイエット」って言うのかな。
リビングにいる間はお姉さんとお母さんからの質問が多くて、俺はそれに答えるのに必死だった。
ヒナはほぼ黙っていて、せっせとスプーンでアイスクリームをすくっている。お客の俺よりもずっと居心地が悪そうな顔をして、まるで小さな子供みたいだ。
でも「彼女とか好きな女の子とかいないの?」ってお姉さんの質問に対してだけ、「いるわけないだろ」ってヒナが答えた。間髪入れずにだよ。失礼なやつ。

 

「……はー。やっと静かになった」

 

二階のヒナの部屋に入った瞬間に、大きなため息と共にヒナがそう吐き出した。俺も、緊張して溜めていたぶんの息を、ふう、と吐いた。

 

「ごめんな。母さんも姉ちゃんも、客が来るとうるさいんだ」

 

ぎしっとベッドを軋ませながら座り、ヒナは器用にまゆ毛を片方だけ上げて言った。
ヒナの部屋は、俺の部屋よりも片付いていて広い。入って左側の壁が備え付けのクロゼットになっていて、洋服なんかはそこに入っているのだろう。
中央にまるいマットがあり、その上に折り畳み式のテーブルがあった。この前お見舞いに来たときにはなかったから、これは、俺と勉強をするために広げたのかもしれない。
ベッドのそばに本棚兼CDラックがある。その上には赤いオーディオ・スピーカー。写真類はまったく飾られていない。

 

「アルバムとかないの?」

 

きょろきょろしながら言ったら、「ないよ」とヒナがばかにしたみたいに言った。さしずめ、「遊びにきたんじゃないんだぞ」だ。わかってるよ。けちんぼ。

 

「さて!」ヒナが声を大きくして立ち上がる。「わからない問題ピックアップしてきたか?」まるでほんとうの家庭教師みたい。

 

「えっ。も、もう始めるの?」

 

「いつ始めるつもりなんだよ」

 

じろり、と目を細めた、いつものヒナの視線。お母さんより厳しいや。
俺はしぶしぶ、かばんから数学のワークブックを取り出す。マットにあぐらをかくと、ヒナも俺の隣に座りなおした。
ピックアップもなにも、ほとんどわからないのだから取り上げようがない。俺は恥ずかしさを押し隠して、「赤マルついてるところが、わかんないところ……」と小さな声で言った。
これ全部!?とか、こんなのもわかんないの?とか、言われるだろうかと思っていたら、

 

「ふうん」

 

と、一言だけヒナは言った。
赤マルだらけのワークブックをめくって、ふんふん頷くと、「オーケー。じゃあ、一回これ解いてみてよ」と細い指で問題を示す。
解くって言ったって……わかんないのに……という視線を向けたら、

 

「どこで躓いてるのか探さないと教えられないだろ」

 

と、エスパー・ヒナが答える。
仕方なく問題に取り掛かった。シャーペンよりも消しゴムを使っている時間のほうが長いくらいの俺を見ながら、またふんふん頷く。

 

「……ここからが、なんか、こんがらがっちゃってわからない」

 

「ああ、うん。じゃあさ、まず――」

 

はっきり言って、意外だった。
何度も何度も教えてもらっても、「わかんない……」「なんでこうなるの?」と繰り返す俺に、ヒナは一度もため息をついたりいらいらしたりしなかった。
ページをめくって戻り、「さっきこの問題解けただろ?これの応用なんだって」と言ったり、ときどきは、「大丈夫。出来るよ」と言ってくれたりした。
ヒナってお兄さんみたい。
――と、思ったけど、それはあまりにも情けないから言わなかった。

 

「――あ。これ、出来たかも。わかるかも」

 

数学って不思議だ。どうして?なんで?って考えているときはちっとも相手にしてくれないのに、一つ式を理解して飲み込んだ瞬間に、するするとほどけていく。もちろん、その式の組み合わせが複雑になってくると俺にはお手上げになっちゃうんだけど、ヒナ曰く「こんがらがったら分解してみるんだよ。ばらばらにしちゃえば、ハルの知らない式は一つも入ってないから」だそうだ。
無意識に出た明るい声に、ヒナも「出来るじゃん!」と笑った。

 

「出来る!かも!」

 

「かもじゃなくて!じゃあ、今度こっち!」

 

「えっ」

 

違う問題をすぐさま示されて固まると、ヒナが「えってなんだ。えって」とまた目を細くした。

 

「……だって、もう、二時間近く経ってるよ?俺、ちょっと喉が渇いたし……」

 

顔の前で両手を擦りあわせて言うと、ヒナがふうっと息を吐いて立ち上がった。仕方ないな、と顔に書いてある。

 

「なに飲む?オレンジか、りんごか、コーラか」

 

「コーラ!」

 

両手を上げてへらへら笑ったら、デコピンをお見舞いされた。

 

 

 

ハル、と呼ばれて振り返ったら、そこには、ヒナがいた。
――ううん。ヒナなんだけど、ヒナじゃない。だって、すごく背が高いんだ。でも顔はヒナそのまんま。
笑ったときのくしゃくしゃの目元も、真っ白で大きな歯も、見ればどうしたって笑っちゃうヒナの笑顔だ。
ヒナ、と答えた俺の声はでも、ちっともそれを不思議だと思っていないみたい。背の高いヒナ。見たこともない、黒いスーツみたいなのを着ている。
ヒナが俺の手を取る。
大きな白い手。俺はとってもびっくりしているのに、当たり前みたいにその手を握り返した。
行こうぜ、とヒナが言う。どこに?
行こうと言われたその場所は、とても広くてひどく眩しい。鳥肌が立つ感覚に、俺は動けなくなる。息を飲むと、ヒナが笑った。大丈夫だよ、と言うときの顔だ。
ヒナの腕が俺を包む。ほんとうにヒナの腕?がりがりの、ごぼうみたいな腕と全然違うよ。
ハル、大丈夫だから、行こう。
数学の問題なんか比にもならないくらい、ほどけそうにない力強いヒナの腕。顔を埋めた胸も、いつもみたいに薄っぺらくない。
アーモンドの形をした、ヒナの瞳が近づいてくる。そこに映っているはずの自分の顔が、どんなふうになっているのかよくわからない。
ヒナ、と、小さな声で俺は言う。
柔らかいなにかが、そうっと、触れる。

 

 

 

――ル、ハル、晴生……

 

「バカハルッ!起きろ!」

 

がん!という音と、それから数秒遅れの衝撃が頭に走る。痛みは、さらにそのあとだ。

 

「……いっ……たあ……」

 

おでこを押さえる俺に、「どんだけ揺すっても起きねえんだもん。座ったまま寝るなよな」と、心底呆れた口調でヒナが言う。そう、ヒナが……ヒナ……

 

「ヒナッ!」

 

「うわっ!」

 

隣に腰を下ろしたヒナの顔を両手で挟んで見つめた。むにっと寄った頬っぺたと、タコみたいになった赤い唇。眉の間に皺を寄せ、「な、なんだよ、ハル」と目を瞬かせる。
俺の知っているヒナだ。中学生の、赤木陽太だ。面白い顔をした、俺の親友の。

 

「さっき、夢に、ヒナが……」

 

あぐらをかいたヒナの腿に乗っかって、半ば押し倒すみたいになりながら言った。頭がまだぼんやりしている。ヒナの身体をべたべた触って、ほんものかどうか確かめた。

 

「くすぐったい!やめ、やめろハルッ!」

 

顔を真っ赤にしてヒナが叫ぶ。俺はでも、そんなのお構いなしにヒナに抱きついた。

 

「は、え、ちょ、ハルッ!?」

 

「ヒナ?ほんもののヒナ?」

 

薄っぺらい胸に耳を当てたら、そこは思いのほかはやい速度でとくとく鳴っていた。自分でもばかみたいだと思うけど、俺の声は心細く響いた。夢だってわかっているのに、ヒナが突然大人になってしまったみたいな寂しい気持ちが胸いっぱいに広がって、泣き出しそうだった。
あの眩しい場所はどこなんだろう。
大丈夫だってヒナは言ったけれど。俺、なんだかこわいよ。
それに、ヒナの腕も、声も……

 

「ハル……?どうした?そんなにこわい夢見たのか?」

 

答えられずにぎゅっと抱きつくと、背中にヒナの腕がそろそろとぎこちなく回された。細い、がりがりのごぼうみたいな腕だ。俺の知っているヒナ。

 

「ヒナ……」

 

ほんとうに、ずっと一緒なの?
ほんとうに?ヒナ……。

 

 

 

数学も英語もすっかり忘れて、俺はそれこそ小さな弟みたいに、ヒナにずっと抱きついていた。
変な夢だった。
こわい夢じゃなかったはずなのに、心がざわざわしていた。

 

 

 

 

*To be……*

 

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