*陽太4*Sunday

 

 

 

ちょっと待ってよ、と、誰に言うでもなく俺は思う。
心臓が身体の中で膨らんで大きくなって、口から飛び出るどころかそのままぱんぱんになって破裂しそう。
うっすら汗をかいた首筋に、それをさらに湿らせるみたいな息がかかる。
ちょっと待ってよちょっと。
そりゃ、たしかに、俺は女が嫌いだけれど。
だからって男が好きなわけでもない。
それなのになんで、ハルを抱きしめたりしているんだろう。
なんで、心臓がどっかへ行っちゃいそうなんだろう。

 

 

 

 

 


「陽太ーっ」

 

「わあっ!はいっ!」

 

階段の下にいるはずの母さんの声は、自分の部屋のドアをきっちり閉めていても地響きみたいに聞こえてくる。まるで怪獣だ。
姉ちゃんが、「ヘッドフォンつけてハードロック聴いてたって届くわよ」と言うのも、あながち冗談じゃない。
大きな声で返事をしながら飛び跳ねるように身体を離した俺に、腕の中からぽーんと投げ出されたハルは瞬きを繰り返していた。
細かいまつ毛が、涙のようなもので濡れてきらきらしている。

 

「あ、ご、ごめん。驚いたよな?」

 

謝る俺にハルが首を横に振り、口を開こうとしたとき、ゴジラの足音が階段を軋ませながら近づいてきた。
ノックもせずに部屋を開けるのは止めてほしい……と、少し前に言ったら、「あらやだ。色気づいちゃって」と笑って一蹴された。色気とかじゃない。プライバシー保護とか、そういう言葉知らないわけ?
そんなんだから、もちろん部屋のドアはどすどすという足音の直後にワンクッションもなく開けられた。

 

「お風呂沸いたから、ハルくんに先に入ってもらいなさい」

 

にこっと笑う母さんは、笑顔だけじゃなく声も服装もよそ行きだ。こんな夜に出かけるわけでもないのに化粧もそのままで、はっきり言ってちょっと引く。だって小学校のときの友達が来たときはすっぴんなんだぜ。
ぎりぎりセーフで、ハルはもう俺の膝にのっかってはいなかった。まるいマットにぺたっと膝の内側をくっつけて座り込み、

 

「あ……。ありがとうございます」

 

と、ぼんやりした口調で言う。

 

「あらハルくんどうしたの?ちょっと目が赤いけど」

 

「あ、いえ、なんかいつの間にか寝ちゃってて。ぼうっとしちゃって……」

 

「陽太が先生ぶって無理に勉強させた?」

 

おほほ、とでも笑い出しそうな母さんを睨みつけ、「先生ぶったりしてねえよっ」と小さく叫んだ。小さくってところが、我ながらちょっと情けない。
ハルはおっとりと首を斜めに傾けて、

 

「ヒナは、教えるのすっごく上手なんです。俺、ばかだから同じ質問何回もしちゃって……でもぜんぜん怒らないし、優しいし」

 

と、いつも通りマシュマロみたいな笑顔を見せた。うたた寝から目覚めたばかりだからか、いつもの三割増しくらい、とろとろに溶けている。
目線を上げると、母さんはきょとんとしたあとになぜか照れ、頬に手を当てて「褒めすぎよ」と笑う。
ハルって天使みたい……という感想がぱっと浮かんだが、急いで頭を左右に振って打ち消した。
なんか、おかしい。ハルは手のかかるバカな弟……。ハルはおっちょこちょいで泣き虫の……。

 

「陽太、ほら、ハルくんにタオルの場所とか説明してあげて。あ、冷蔵庫にアイスキャンディがあるから、お風呂のあとに食べなさいね」

 

アイスキャンディを食べるところまで含めて、ある意味命令なんだろうな、と思う。「へいへい」と言って立ち上がると、「はい、でしょ」と小突かれた。ぺたんと座ったままのハルが口元を両手で押さえてくすくす笑う。

 

「庶民的な狭いお風呂でごめんなさいねえ。でも、ゆっくり入ってね。あ、入浴剤もあるから、好きなの選んでね」

 

ハルに笑ってもらえるのが嬉しいのか、母さんはぺらぺら喋る。もうわかったから、と言う目で睨んだけれど、もちろん無視。っていうか、俺のことなんか見ちゃいない。

 

「うちのお風呂が広かったら、二人で仲よく入れたのにね」

 

母さんはそんなとんでもないことを言って、おほほ、とほんとうに笑った。

 

「入るかよっ 仲よくたって、ふ、二人でなんて!」

 

今度は声を大きくして叫んだけど、俺の大声なんてゴジラにとっちゃ蚊の羽音みたいなもんだ。

 

「なに照れてるのよ。男の子同士なんだから、恥ずかしがるほうが恥ずかしいわよ。じゃあ、お母さん部屋にいるから、なにかあったら来なさいね。勉強もほどほどにね。ハルくん疲れてるみたいだから」

 

”勉強もほどほどに”―― 十三年間生きてきて、そんなせりふ初めて聞いたよ。
母さんがドアを閉めて足音が遠ざかって行っても、俺はなかなか振り返ることができなかった。心臓が、まだかすかに速い。
母さんの言う通り、男同士なんだから恥ずかしがるほうが恥ずかしい。風呂なんて修学旅行でも行けば一緒に入るし、サッカーで点数を入れればハイタッチして抱きあうことだってある。
そうだよな。
……そう、だよな。

 

 

 

ハルの入浴は、予想通りすごく短かった。
レッスンのあとのシャワーもそうだけど、髪をびしょびしょに濡らしたまま頭を振りながら出てくるハルは捨てられた犬みたいだ。
「夏だから自然に乾くよー」なんて言って笑っている。「夏だって風邪はひくし、」ホラ、夏風邪はナントカがひくって――と言いかけて、俺も最近ひいたばかりだから言うのをやめた。

 

「とにかく、ちゃんと乾かせよ。俺も風呂入ってくるからそれまでにな」

 

母さんがハルのために新しくおろしたたまご色のバスタオルとドライヤーを押し付けて部屋を出た。
浴室に入ると、涼しい香りがぷんと漂ってきた。目の前にはもうもう湯気が広がっているのに”涼しい”って妙な言い方かもしれないが、バスタブを覗いてみて「あ、やっぱり」と俺は声を出した。自分でも不思議なくらい嬉しそうな声が出た。
お湯は、透き通った明るいグリーンでたぷたぷと揺れていた。ハルが選んだ入浴剤の色だ。
入浴剤集めは母さんの趣味で、「わたし入浴剤って好きなのよね。〇〇温泉の~とか、色々味わえていいじゃない?」と公言してからは、習い事のお友達やら仕事の関係の人やら誰それやら、とにかくみんなが入浴剤をくれるようになって、我が家は店を開けそうなくらい入浴剤で溢れている。
どれでも好きなのを使っていいから、と、アルミの箱いっぱいに詰まったそれを見せると、「うわあ」とハルは驚きと喜びの混じった声を出していた。
俺は心の中で、ハルはきっと清涼系のを選ぶだろうなと思っていた。
ハルの好みならたいていわかる。食べ物の好みとか、好きな色とか、踊りやすい音楽のジャンルとか……。どんぴしゃりと言い当てれば、ハルは大袈裟に驚いて、「ヒナにはなんでもわかっちゃうね」と笑う。マシュマロとか、大福とか、シュークリームみたいな笑顔。

 

「好きな、……女の子のタイプは知らないな……」

 

ぴちゃん、と、蛇口から垂れた雫が音を立ててバスタブの中の湯に落ちた。広がる輪を見ながら、折り曲げた自分の膝に顎をのせた。
グリーンの液体の中でつま先を動かしてみる。
俺はたまたま女が嫌いだけど、同じクラスのやつらはみんな、なんだかんだ言いながら女の視線を気にしている。
この前なんか”胸がでかい女子ランキング”なんていうのを作って、にやにや笑っているグループもあった。「赤木も投票しろって」と言って差し出された紙にずらっと並んだ女の名前を見て、どれもぴんと来なかったのでウケ狙いで音楽の先生の名前を新しく付け足しておいた。五十代の、まあるく太ったおばさん先生なんだけどね。巨乳っちゃあ巨乳じゃん。
たとえばハルは、学校のやつらとああいうことするんだろうか。
クラスに、ちょっとくらい可愛いなって思う女はいるのかな。
それはどんな子なんだろう。「面白い顔が好き」とか、わけのわからないことを言っていたこともあったけど、「面白い顔」ってなんだよ。
……俺だって、女が嫌いっていうのは、ただ面倒だなって思っているだけだ。可愛いと思うアイドルとか女優とかだっているし、れっきとした好みのタイプだってある。たぶん。

 

「目が、二重で、でかいこと」

 

膝に顎をのせたまま、右手だけ湯から出して指折り自分の”好みのタイプ”を挙げた。
自分が一重瞼だからか、俺はぱっちりした大きな二重瞼の瞳に目が行きやすい。二重で目がでかい子は、だいたいまつ毛も長い。ハルもそうだ。しかも、あいつのまつ毛は長いだけじゃなくてバンビみたいにくるんとカーブしている。

 

「髪……髪は、どっちでもいいかな。でも、長いほうがいいかなあ」

 

似合っていればどちらでもいい。それで、髪は柔らかいほうがいいな。二人で組んでストレッチしたときに顎や頬に当たるハルの髪は、いつもふあふあしている。ワックスなんかつけたことがないって言う。光の下にいると、輪っかができる。

 

「あんまりお喋りなのは、ヤだ」

 

俺が女にいいイメージを持っていないのは、絶対にあの母さんと姉ちゃんの影響だ。早口で、口うるさくて、すぐに怒るくせに次の瞬間にはくだらないドラマでけらけら笑っていて。その点ハルは、舌っ足らずだし物事の整理がうまくできないから、喋っている間になにを言いたかったのかわからなくなったりして、「うーんと、ちょっと待って」ってよく黙る。
ああ、でも、すぐに拗ねるしすぐに泣くところはあるな。食べ物を与えてやればたちまち笑顔になるけど――……

 

「待てよ」

 

右の指が三本折れた時点で、俺は素早く顔を上げた。ぱしゃんっ、と、湯が弾かれて飛ぶ。
おかしいぞ。
俺が挙げていたのは、”女”の”好みのタイプ”だ。
なんで、どうして、最終的にはハルの話になっちゃうわけ?

 

「俺はホモじゃないぞ」

 

勢いをつけて立ち上がると、熱気に満ちた浴室で一瞬立ちくらみが起きた。

 

「れっきとした、”女”の”好みのタイプ”があるんだから」

 

それが、ただ、ちょっとハルの特徴と被っているだけで……。
言い訳みたいに頭の中で繰り返しながら、シャワーをひねってつめたい水で顔を洗った。
そんなに長い間浸かっていたわけでもないのに、俺の身体はあちこち真っ赤に染まっていた。

 

 

 

フルーツの入ったアイスキャンディを二本持って階段を上がる。火照った足の裏に床がつめたくて気持ちいいから、風呂上りだけはスリッパを履かない。
考えごとをしていたせいか、いつもより十分以上時間がかかってしまった。三十分も放っておいたんじゃ、ハルのやつはまた眠っているかもしれないな。

 

「あ。ヒナ、遅かったね」

 

がちゃっとドアを開けたら、ハルはちゃんと起きていた。
あちこちにはねてはいるけれど、髪はちゃんと乾かしたようだ。振り返った瞬間に柔らかくふあふあ揺れる。

 

「おー。これ、さっき母さんが言ってたアイス」

 

「あっ しろくまだあ!おいしいよね、これ」

 

「うん」

 

少し離れて腰を下ろしてから、ハルの格好に気付いてぎょっとした。
さっき風呂から上がってきたときは、だぶだぶのTシャツにハーフパンツを着ていたのに、いまはだぶだぶのTシャツしか着ていないのだ。いや、もちろんパンツは穿いているんだろうけど、Tシャツがでかくて丈が長いので、すっかり隠れてしまっている。

 

「はに?」

 

透明の袋をぱりりと開けて白いアイスを頬張りながら、俺の視線に気付いたハルが言った。さしずめ、「なに?」だろう。

 

「ズボン穿けよ。だ、だらしないなあ」

 

「はふふっへ」

 

「ちゃんと喋れってば」

 

出会ったときよりもすこし焼けたように感じる太ももから視線を外していつも以上にぶっきらぼうに言った。

 

「あつくって、って言ったの。ヒナも暑くない?顔真っ赤だよ」

 

不自然に首を曲げて顔を逸らすと、負けじと覗き込むようにハルが距離を詰めてくる。
湿った手のひらが俺の膝に触れる。「ヒナ?」と言いながら、見上げてくるバンビのまつ毛を避けるために背筋をぐいんと伸ばして身体を引く。が、結局耐えられなくて後ろにそっくり返った。情けない俺の腹筋。

 

「うわっ」

 

もちろん、覆い被さるようにハルが腹の上にのっている。
心臓が、また早鐘を打ち出す。身体の中で膨らんで弾けそうになる。ハルに気付かれたら、変なやつだって思われる。男を抱きしめてどきどきするなんて、どう考えても。
ハルは平気な顔をして、なぜか俺の身体の上にぺったりくっついたままだ。アイスキャンディをちょびちょび舐める余裕まであるみたい。
俺はピンで押さえつけられた昆虫の標本みたいに、マットに寝転がって固まっていた。右手に握ったアイスキャンディは、まだ袋すら開けていない。
そんな俺のようすにはちっとも気づかないのか、

 

「さっきも思ったんだけどさ」

 

と言って、ハルは俺の胸に耳を当てる。

 

「ヒナの心臓って、――」

 

そうだ。おかしい。こんなにどきどきしているなんて、おかしい。心臓だけじゃない。身体中の脈が、どきどきっていうよりどくどく動いている。

 

「わ、わかってるよ!」

 

肘をついて上半身を起こし、俺は叫んだ。と言っても、声は小さいし、のどがカラカラでひっくり返り気味だった。

 

「へ?」

 

また膝の上にのっかった状態で、ハルが瞳を大きくする。

 

「俺の心臓がおかしいことはわかってるよ!で、でも、どきどきするんだから仕方ないじゃん!べつに俺は、変な意味でどきどきしてるんじゃなくて!俺は女が好きだし!こ、好みのタイプもあるし!目がでかい子が!いや、そうじゃなくて!」

 

「……ヒナなに言ってんの……?」

 

「知るかよ!もう!」

 

自分でもほんとうにわからない。なにもかも、悪いのはハルだ。さっきハルがあんなふうに、めそめそしながら抱きついて来たりしなければ、こんなふうにはならなかったのに。
恥ずかしさのあまり俯いた。俯いたら、すぐそこにつるつるしたハルの太腿があったのでびっくりして顔を上げた。突然頭を上げ下げしたからか、くらくらして世界が回った。ああ。

 

「なんかよくわかんないけど、ヒナの心臓、おかしくないよ?俺もどきどきするもん、ヒナといると」

 

「えっ」

 

近すぎる距離の真正面に、ハルの笑顔があった。甘い、練乳の笑顔だ。

 

「なんか、いつもさ、俺が不安になったり怒ったりすると、ヒナが頭撫でたりぎゅうっとしたりしてくれるじゃん?うーん、まあ、友達同士ではあんまりしないのかもしれないけど、俺、そうやってしてくれるたびお父さんのこと思い出すんだよね」

 

「……お、おとうさん……」

 

「うん。小さいとき、お父さんがぎゅうっとしてくれたのに似てる。そのときも、どきどきしてたな。もちろん変な意味じゃないよ?お母さんに抱っこしてもらうことはあっても、お父さんがそんなことしてくれるのって珍しくてさ。なんか、特別扱いしてもらってるみたいな気がして、嬉しいけど恥ずかしくて、どきどきしてた。そんな感じにちょっと似てるんだよね」

 

「……俺が、ハルの、お父さん……」

 

ぽかん、と口を丸く開けていると、ハルはじんわりと頬を赤くして唇を尖らせ、

 

「あ、ば、ばかにしてるんだろ。ガキっぽいって」

 

と言って俺を下から睨んだ。
だけど、「タコのハル」とか「お父さんっておかしいだろ」とか、からかうこともすっかり忘れていた。
俺は安心しきって、胸につっかえていた息を長く吐き出した。そうか。どきどきするのはおかしくないんだ。そうかあ。ホモじゃなくてよかった。
握っていたアイスを放り出して、膝の上にのっているハルを両腕でぎゅっと抱きしめた。

 

「ひゃ!」

 

突然だったからか、力が強かったからか、ハルが驚いて叫んだ。

 

「よかったー……。俺だけ、どきどきしてんのかと思って、心配になって……」

 

薄っぺらいハルの身体。柔らかい髪。ふくふくした頬っぺた。
そうか。これは、子供の特徴だ。
俺って父性愛があるんだな。

 

「暑いって言ってんじゃんー。あんまりぎゅうぎゅうしないでよう」

 

自分からのっかってきたくせに文句を言いながら、ハルはされるがままになっていた。
とろとろした白いアイスを頬張りながら、

 

「心臓は変じゃないけど、ヒナは変だよ」

 

と笑って俺の胴を細い脚で締め付けた。

 

 

 

ホモ疑惑が晴れて(自分で疑っていただけだけど)安心してベッドに入った夜、夢を、見た。
夢の中で、俺は誰かと手を繋いでいた。
それは俺よりも小さな手だったけれど、意外と厚みのある、しっかりした手でもあった。
握っていたその手の甲に、夢の中の俺はそっと唇をつけた。
そして笑って、
相手の名前を呼んだんだ。
晴れた日に生まれたから、
きみの名前は、

 

――へ?

 

 

 

「ハルくんは偉いわねえ。朝からきちんと食べて」

 

日曜の朝。いつもなら、数年前のチャリティーバザーで買った毛玉だらけのTシャツを着ている母さんが、フルメイクの上にエプロンまでつけて(そんなのうちにあったのか)テーブルにどんどん料理を運んでくる。
ハルはバタと塩のきいたオムレツを口に入れて、「あひ」と言ったあと、慌ててそれを飲み込んだ。

 

「朝からごちそうばっかり!おいしいです!おばさんって、すっごく料理上手!」

 

お世辞じゃないって一目でわかるにこにこ顔に、母さんはまたしてもでれっと笑う。
ごちそうっていうのは言いすぎだろうって思ったが、鮭の塩焼きのきれっぱしみたいなのとか、田舎から送られてくる海苔のつくだにとか、姉ちゃんの弁当箱に入りきらなかった卵焼きの残りとかが無造作に皿に盛られているいつもの朝食に比べれば、これはまあごちそうかもしれない。
この調子だと、朝からケーキが出てきたっておかしくないな。
小さくため息を吐きながら、ガムシロップを二つ入れた甘いカフェオレをちびちび飲んだ。

 

「それに引きかえ、陽太。なんなの朝からだらだらして。ちゃんと食べなさいよ」

 

と、フルメイクの母。

 

「寝不足?やーだ、友達がお泊りに来てくれたからって興奮して寝付けないなんて、ガキー」

 

と、同じくフルメイクの姉。髪まで巻いている。
母さん→姉さん→俺、という順に忙しく目線を移していたハルが、口の端に黄色いたまごのかけらをつけたまま、くすくす笑う。うるさい女二人が、はっと黙っちゃうような可愛い笑顔。ホットケーキの上の、とろんと溶けかけたバタみたい。

 

「まあ、仕方ないわよね。陽太はハルちゃんラブだからー」

 

姉ちゃんのからかいにムキにならなかったのは、ほんとうに寝不足でぐったりしていたからだ。
それに、その冗談はシャレにならない。

 

「――俺はハルのお父さんだから、まあ」

 

ぼそっと呟くと、ハルだけが無邪気に笑った。

 

 

 


*To be……*

 

 

 

 

 

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